ちょうどベースキャンプはこれぐらいの雪。
そこから左に回り込むように槍ヶ岳に向かうルート。
午前3時に行動開始すれば、夕方には槍ヶ岳の冬季避難小屋に転がり込めるという作戦。年がら年中山を登っていて、自信があった。
荷物はテントはベースキャンプに張ったままで、寝袋とお湯を沸かすためのストーブコンロ。燃料はコンロに入るだけ。スノースコップは置いておいて、ピッケルと行動食とヘッドランプ。
夜明け前に出発し、尾根に登れば稜線を伝えば着くというイメージ。
正月は天候が安定するという、気象パターンに喜んで快調に登っていきます。
まだ最初は写真を撮る余裕があります。
ここを回り込めば着く。
そう確信しておりました。
それが、結構雪が次第に深くなり、場所によっては、胸の高さまであり、わかんという雪に沈まないためのものをつけていても沈みます。
おそらく、だれも人が来ない新雪がふわりと重なり、そこを踏むもんだから胸まで沈むということになるのでしょう。
とはいえ、まだまだ、日も高く、いけるという確信があるので、先を進みます。
すると、だんだん雲が山にかかってきました。
その時、僕も前にウサギが横切ったんですよね。
久しぶりに動くものにあったと喜んでいたのですが、これが物語2の幕開けだったような気がします。
そして、木々につけられたテーピングに従い雪を踏んでいきます。
時間は午後3時。すでに10時間以上歩いています。
風は強くなり、雪は大粒。それが容赦なく自分の体に当たります。
視界はホワイトアウトで、全部白。
気付いたらものすごい角度の斜面を登っておりました。
すると、どこからともなく、「血のにおい」がしてきます。
自分の体を見ても怪我はしていません。
どうしたんだろうと意識を沈めると、自分の頭の中で声がして、「無理だから少し下がろう」と言います。
確かに、周りは暗闇で、灯りはヘッドランプだけ、照らしているのは、360度の雪。
初めて、そこで、冷静になりました。
あと少しのところまで来ているのはわかるのですが、圧倒的に大自然に取り囲まれている状況で、目印は見えません。
そこでまた声がして、「足跡ついてるやん」と言います。
確かに、何も見えないわけではなく、その手があったのです。
そして、「樹林帯まで下りよう」というので、従います。
確かに、雪に大半は埋もれているものの、不思議とこれでいけそうな気がしてきます。
さらにどうしようと聞くと、「雪穴掘ろう」と言います。
なるほどと思い、少し風を避けられるとこを見つけ、掘り始めます。
本来は、滑落防止の滑り止めのものだけど、スコップをベースキャンプに置いてきたのだからやむをえません。
しかし、雪洞といえど、新雪の中のふわふわした雪で作るのはメチャクチャ大変でした。
荒れ狂う風雪の中、雪を固めつつスペースを作り潜り込んだのは2時間後。
気づけば夜の8時頃でした。
「よし」と思った次の瞬間、入り口から雪がガンガンはいってくるではありませんか!
間髪おかず、背負っていた80リットル入るザックを門代わりにしました。
全面雪の中、崩れたらどうするかなぁと思いつつ、お湯を沸かしコーヒーを作りようやく一息。
当時は吸っていたタバコに火をつけます。
すると、大丈夫降りれるという自己確信がイメージとしてはっきり描くことができたのです。
今から思えば、極地仕様の寝袋があったから、凍死しなかったのだろうなあというたまたま直前に迷いに迷って買った寝袋にくるまって仮眠。
何回も時計とにらめっこして、夜が明けることを期待しつつ、時間は過ぎません。
何かの本で、こんな時寝たら死ぬと書いてあったと思いつつ、必死に眠気と戦います。
しかし、1日17時間動いて、寝るなというのが無理で、そのまま寝てしまいました。
これまた今思えば、新雪なので、圧雪されてなくて、空気が通ってくれたのが幸いして、起きてもお陰様で生きておりました。
ただ、入り口が、雪で完全に埋まってしまって、焦りました。
人間、出るものは出ます。大小ブリザードの中やり切り、次第に生活感が出てきます。
翌日も、穴から出て見渡すものの、行ったら死ぬなのイメージだったので、待期。
寝れると思って爆睡です。
本当に良く寝ました。冬眠みたいです。
これも非常に下山に向けて良かったんだなぁと思います。
あとは、安心してきて腹が減ります。飴やチョコは多少あるので、それを食べつつ、イメージしてたのは、飛騨高山でいつも行く焼きそば専門店の肉焼きそば玉子入り。
これを死んでも食うぞとイメージし続け、雪洞生活3日目。
むくりと起きると、どうやら人の声がします。
当時はスマホどころか携帯もここまでは電波が届かない状態です。救助は期待できないのですが、人の声が確かにします。
飛び出すと、ガガーリンの地球は青かったのセリフがよぎるほどのものすごい青空。雲一つありません。
素早く荷物をまとめ、声がする方に向かいます。
すると遅めの正月狙いできたと思われるパーティ4人と出会う。
この人たちのおかげて、雪の中に踏みしめられた道が出来ている。
行けると確信し、飛騨高山の焼きそば屋まで爆進です。
4人にすれ違いざま、すっかり遭難してたのを忘れて、満面の笑みで挨拶したのでありました。
長文お付き合い誠にありがとうございました。